旅芸人の記録 / テオ・アンゲロプロス 監督



おにぎり1個で駆け込んだもので…4時間は堪えた。
しかし、食事シーンがおそらく意図的に排除されている故、
空腹にも耐えられたのかも知れないし、なにより飽きない。


夜の真っ暗なシーンが続くと眠くもなったが、あのタダゴトでない暗さが重要。
無防備都市』を思い起こした。
不穏な空気のなか、周期的にハッとさせられるシーンがインサートされる。
雪上のニワトリ→チキンに変わるコミカルなシーンとか、英兵を前にした海辺での即席舞台。
あそこは泣ける。
ねらいすました美しさじゃなく、それに出くわせた悦びを伴う美。
結婚パーティーを滅茶苦茶にする息子の横移動撮影もカッコイイ。


曇天つづきの街。そこへ、時々もの凄くロマンチックな風景が広がる。
その度に、鳥肌がたつ。


旅芸人一座が、歴史に翻弄されていく。
見事にリフレインされる「皆、疲れていた」というフレーズが印象的。
あるいは、無限に増幅される「パパゴス元帥に投票せよ」という街宣車のアナウンス。
黒服ばかり着た彼らは、"歴史"が伸ばす影、そのもののよう。
ただひたすら、同じ芝居『羊飼いの少女ゴルフォ』を演じつづける。
過酷な状況にあっても、芸人としてのプライドだけは絶えず堅持してるカッコイイ連中。


ギリシャ史とかギリシャ悲劇が主題ゆえ、敷居が高い気がしたが、
難解さも取っ付きにくさもなかった、濃密な映画体験でした。字幕は池澤夏樹さん。


http://www.eurospace.co.jp/detail.html?no=268