古屋誠一 メモワール.



はじめてみた時から、この写真が大好きだ。
この作品が広い展示室にただ1枚架かっていても、何分でも対峙していられる
そう思ったが、数えきれないほどの妻・クリスティーネの写真を前にして、
また別の感覚におそわれた。


1枚1枚、まったく別人のように映ったクリスティーネ。
直線的な連続性を見出せない、その不可思議な写真群のなかで、
時間は止まっているどころか、無限にふくらんでいる。
自分には、そう感ぜられた。


「Izu, 1978」
リストカットの痕は、父から貰ったポストカードでは気付かなかったが
本物では、青々とした伊豆の海の照り返しによって、痛々しいほどはっきりと
入れ墨のようにして在った。透けているようにさえみえた。


また彼女は、つえがなければ落ちてしまうほど
陸と海との境界にたっていた。


やはり、時間を忘れて みていられる写真だと思った。


http://syabi.com/contents/exhibition/index-18.html