全身小説家 / 原一男監督



うっとりするほどの形式美。
ドキュメンタリーなのに安定した、均整のとれた構図。


はじめて映像でみる井上光晴は、色白で、人懐っこくて愛らしい人だった。
彼の人間的な魅力がこれでもかというほど映し出される。
同時進行で、自作年譜の嘘がつぎつぎやり玉にあげられる。


「夢のごときものにとり憑かれて出奔放浪」したはずの父とは実は同居していた、
出生地もちがう…など数えきれないほどの虚構。


原のカメラは、文学者を容赦なく丸はだかにしてしまう。
女方に扮し、ストリップを披露する光晴。
肺の手術のさまも克明に…切り裂かれたはらわたまで映るのには目を覆った。
一方あまたの愛人が登場して、井上との燃えるような情愛を熱弁。
(井上さんは)グロテスクとか、ダイアモンドとか…中年女性の目は輝いている。
凛とした郁子夫人とのシーンは、どれも美しいものだった。
とくにゆでてもらったうどんをおいしそうに食べるシーンが良い。


ドキュメンタリーの厳格さで先祖の墓を暴いてまでして真実に迫ろうというそぶりを見せつつ、
結局最後はフィクションの側に寄り添って終わる。
そして「全身小説家」とタイトルを冠すあたりが秀逸だなあと思う。


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